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そして誰もいなくなって儘ならない

by - 11月 11, 2023



とある木曜日、母が借りている家の不動産屋から私のスマホに着信が。

この手の連絡はだいだい碌でもない事なので緊張が走る。
仕事中だったので電話はとれず、不安な気持ちを押し殺しながら隙間時間に母に「不動産屋から連絡きたけどなんかあった??🤔」と出来る限りPOPにLINEを送ると 

「熱で倒れて不動産屋に連絡できてなかった
 明後日までには自分で連絡するのでそのままにしてください🙇‍♀️
たぶん退去の勧告だとおもう汗」

 とポップな返信がありそのまま連絡が途絶える。
いや、「おもう汗」ちゃうねん。大事やん。退去の勧告って……。
え、た、たいきょのかんこくぅ…!!!?????

 母…母よ…。家賃また滞納したんか…?それ以外のことをやらかしたんか…?
家賃も税金も滞納して給料差し押さえられたって連絡きたからボーナスまるごとあげたばかりの母よ…。もう総額でいくらあげたか計算するのを僕はやめたよ…。いつかこういう日が来るって覚悟は決めてたよ…。でも想定よりはやいよ…母よ…母よ…なぜ先月会った時に言ってくれないんだ母よ…。でもどんなにあなたが金銭管理が下手でもあなたが作るお節は世界で一番美味しいよ…。せめてお節が世界で一番不味ければ憎みきれたのに母よ…。 

でもまぁ自分で連絡するって言ってるし、一旦わたしからはアクションしないでおこう。
「連絡よろしく。体調お大事にね!」と無難な返信をしつつ、その日は「人生は自由意志。人生は自己責任。今際の際に自分のケツを拭ければそれでいい」と呪文を唱えながら精神安定剤をガブガブ飲み虚に夜を過ごした。

まあ、わたしも数年前にうつ病とマブダチになっからメンタルの対処法はわかってきましたからね。大抵のことはとにかく飯を食ってたくさん寝て薬に頼ればどうにかなるんですよ。

というわけで金曜日は、人生ってケ・セラセラ!家のことは家のこと!仕事とは切り替えて元気いっぱい頑張るぞ〜!と出社しました。お薬最高!!
元気いっぱいにお仕事を始めた途端、鳴るスマホ。昼頃、打ち合わせ中も鳴るスマホ。2時間おきになるスマホ。だんだん鳴る間隔が短くなるスマホ。
ま、まあ今日か明日には連絡するって言ってたからな、不動産屋には申し訳ないけどわたしは出ないぞ…。(純粋に掛け直せるタイミングもなかった。)

とにかく今は仕事だけするんだ…家のことは考えないんだ…家庭のことを仕事に持ち込んで鬱になるのはもう辞めたんだ…。

社内チャット<シュポ!
『○○不動産から本社まで電話がありましたが…』 

僕はね、このチャットを見たとき天を仰いだね。
いくら僕が家庭を仕事に持ち込まないようにしても向こうから来ちゃうもんね。参ったね、全く。

でもわたしも過去の休職経験から学んでいますので。
自分の都合で会社に迷惑をかけることは避けたいので、昨日の時点で上司には状況報告とわたしが家族のことでメンタルブレイクしやすいことは相談済みだし、「何かあればできるサポートはするよ」と優しいお言葉も頂いたのでね、とりあえず電話はスルーするよ。ごめんね。怖いよ。ごめんねって電話すぐ折り返さなくて。僕は情けない人間だようああああああああああああああああああああ!!人生って本当にくそだしわたしは親孝行もまともにできないし家のことでメンブレして仕事に集中できないし恋人いないし足短いし冬にお湯が出ない家に住んでるしまともになれない本当にくそああああああああああああああああ!!!

メソメソしながら金曜日も「人生は自由意志。人生は自己責任。今際の際に自分のケツを拭ければそれでいい。孤独死は怖くない。墓なんて要らない」と呪文を唱えながらガブガブ薬を飲み布団に潜った。

土曜日になっても変わらず不動産屋から電話くる。ものすごく着歴残ってる。
連絡先名を好きなアイドルの名前にしたら推しから鬼電きてるみたいで楽しいかなと思ったけど、虚しくなりそうだからやめた。
茶化してる場合じゃないけど、母は「退去の勧告だとおもう汗」以降全く連絡が取れない。
体調大丈夫?しんどいならわたしから不動産屋に連絡しようか?と連絡するも既読がつかない。
状況がどうなっているのかわからなくて身動きが取れない。
いや、とっとと電話に出ろという話だけど、内容によってはマジでメンタルが再起不能になる可能性があるので、なんの情報もなしでできるのは怖い。ちゅ、情けなくてごめん。

土曜日は呪文を唱える元気もなくて布団に縮こまった。
自分のダメなところばかりが思い浮かんで、クソのなのは人生ではなくて自分だなあと思った。
いい歳した大人になってもこんなことで凹んでいる自分が更に情けなくて辛い。

日曜日も朝イチ着信が残ってた。
流石に月曜日にまた会社まで電話がくると困る。どげんかせねばいかん。
意を決して妹にLINEを送ってみることにした。少し年の離れた妹とは馬が合わず、人生で数える程度しか会話したことがない。わたしから妹にLINE送るの初めてだった。
妹に送るLINEのテンションがイマイチわからず、緊張しながら送ったLINEには、夜返事が来た。
母、一週間近く熱出して寝込んでいるらしい。妹にも不動産屋から電話が来ていて「状況の話がしたい」と母に言ったところ、元気になったら対応すると跳ねられたと。ああ、うん、母そういうとこあるよなあ…と思いながら、もうこれはわたしが不動産屋に連絡するのが一番早いなとようやく覚悟が決まった。
もう夜も遅かったので、明日の朝一わたしから不動産屋に連絡をすること、申し訳ないが母の体調様子みてあげて欲しいことを妹に送り、母には体調無理せず病院に行って欲しいこと、電話はとりあえずわたしからすることを送った。
母のLINEは相変わらず既読にならなかった。
上司に明日不動産屋の対応で休みをとる旨を連絡したら「ムリしないでね。」と返信をくれた。こういうことを人に話して相談できるようになったのは、この2年で成長できたことかもしれない。
自分のことを知ってくれている人がいてくれるって、なんだか安心する。

その日の夜は、この数年間でできるようになったことを数えながら寝た。
一時期文字も読めないくらい落ち込んでたことを考えると、できるようになったことはいっぱいある。
仕事が出来るまで復活したし、少しだけど本も読めるようになってきた。映画も最近は観れるようになった。他人を応援する余裕なんかなかったのに、推しもたくさんできた。
整形だってしてぱっちり二重だし。目だけ切り取ればわたしは可愛い。このゴタゴタが終わったらタトゥーいれてもいいな。足首に小さい怪獣のタトゥー。きっと可愛い。

大丈夫、拠り所はまだある。 


月曜日の午前10時。
どうか怖いことが起こりませんようにと祈りながら不動産屋に電話をかける。対応してくれたおじさまは、思ったよりも声が柔らかい人だった。

不動産「アッ!お電話ありがとうございます オーナーさんがお孫さんを住まわせたいとのことで退去のご相談なんですけど… お母様が連絡つかなくて 」
わたし「アッ!!?そうなんですね!!?すみません、私も連絡ついてないんで今日家に行って様子みてみます 」
不動産「オーナーさんもお年を召されててなるべく早くお話ししたいとのことで…家賃もキチンとお支払い頂いているところすみません 」 

え!!!!!!????????!!!母!!!!!!!!!
家賃はきちんと払えるようになってた!!えらい!!!!!!!!!!!人として!!!!!!!!立派!!!!!!!!!!退去勧告っていうから怯えてたのに!!!!!!!!!ビらせやがって!!!!!!!!!!!

あ〜〜〜〜〜〜〜〜人生ってケ・セラセラ!!!!!!!!!!!!! 
まじ晴れやか。心スッキリ。家賃滞納とか負債とか弁償とかそういう話じゃなくてよかった。
 でも母は変わらず既読にならない。妹と暮らしているとはいえ、体調が普通に心配だし、できれば今後の話しもしたいし、とりあえず実家に行ってみるか…。

電車を乗り継いで年始振りの実家に赴く。同じ都内に住んではいるけど、積極的に寄り付かなくなってからもう何年だろう。
途中、薬と冷えピタとポカリを買った。体調の様子をみて、必要そうなものはまた買い足そう。
家の前は雑草がぼうぼうに茂っている。草抜きしなきゃだけど今日の暑さじゃ厳しいよなあと思いながら、玄関を開けた。こういうとき「ただいま」と言えばいいのか「お邪魔します」と言えばいいのか迷って、いつもモゴモゴしてしまう。

家の中は静かだった。
妹は仕事でいないのかもしれない。母はおそらく部屋で寝ているんだろう。
リビングとダイニングの窓が開けられていて、それだけでも結構涼しい。そういえばこの家は風通しが良かったなあと思い出した。
母の部屋を小さくノックして起こさないようにドアを開ける。 

みんなこのダラダラと長い話がやっと終わるのかと安堵しているかもしれませんが、本題はこれから始まります。

 母は、部屋にいなかった。妹も、部屋にいなかった。
というかこの家には、誰もいなかった。

 ???

わけがわからない。母は熱で寝込んでいるはずでは?
布団は畳まれていて、先ほどまで誰かが寝ていた気配はない。
買い出しにでも行っているのかと思って暫く待てども誰も帰ってこない。
妹も母もLINEが既読にならない。
開いている窓から、近所の子供の声がする。

え、夢??なにこれ????どゆこと????
体調が回復して仕事に行ってるってこと??わたしのLINE未読のまま??それとも蒸発した??宇宙人にでも攫われた??ミステリー?ファンタジー?サスペンス?ジャンルなにこれ????

わからない。もうなにもわからない。
誰もいない家ですることもないので、はてなマークを抱えたまま帰路につく。
動けるくらい元気になったなら何よりだけど、普通折り返しで連絡のひとつくれるもんじゃないのか。いやわたしの普通を家族とはいえ他人に押し付けていけない。人それぞれの価値観。普通。それが多様性。

ああ、家族って難しい。みんなこんな難しいことと向き合っているなんて、偉すぎる。
なんか、みんな自由に生きてんだな。
「人生は自由意志。人生は自己責任。今際の際に自分のケツを拭ければそれでいい」は間違ってないな。もう好きに生きてくれ、わたしも好きに生きるから── 。

そう思いながら火曜日は普通に会社に行き普通に働きなんでもない日常を過ごしました。




後日、無事に妹と母から折り返しの連絡があり、無事に不動産屋にも連絡したそうです。
不動産屋さんにはご迷惑をおかけしてしまい申し訳がない。
母からは何事もなかったかのように「ハロウィンで使いたいから魔女のコスプレ衣装貸してくれない?」などの連絡がきます。ごめん母、わたし、魔女のコスプレ衣装持ってない。

長らく家族と上手く付き合えない自分にコンプレックスや罪悪感を感じて苦しんでいたけれど、なにせ母は世界で一番おいしいおせちを作ってくれるので、なんかもう、それでいいかと思ってしまう。

まだまだ薬はガブガブ飲むけれど、それも拠り所のひとつだからしょうがない。

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